my hometown color 第六話。これはとある千葉の田舎話のつづき。いつもの駅前でいつものメンツで滑っていたある日、その男は現れた。俺らより5つ歳上のその男、名前はミツヒロで通称"ミッチ"。小柄な体格にさらさらロン毛の爽やかな印象。スノーボーダーのミッチは、海外キャンプの費用を稼ぐために長野の田舎町からこの千葉の田舎町へと越してきた。1991年のことである。まだスノーボードの認知度は低く、滑れるゲレンデも少ない時代だった。翌1992年、ジョン・カーディエルやブライアン・イグチ、マイク・ランケットなどが出演した名作"ROAD KILL"が発売され、スノーボードは空前のバブル時代に突入する。そんなスノーボードバブル到来前の、日本経済バブルも弾け散った時代の田舎町に、稼ぎのいい仕事があるのかどうかは疑問だったが、その理由はすぐにわかった。ミッチの仕事はいわゆる"ヤミ米"の販売。今でこそ規制は緩和されてヤミな商売でもなくなったが、当時は裏仕事で稼ぎもよく、オフシーズンにはもってこいの仕事だったようだ。気づくと宇野もそこでアルバイトしていた。高校生の俺らにとって、そんなミッチの存在は大きかった。それまでの移動手段と言えばスケートボードと電車がほとんどだったが、ミッチの愛車"HONDAシビック"のおかげで、いつでもどこでも時間を気にすることなく、滑りにも遊びにも行けるようになったのだ。週末になると蓮沼へ行って、スケートボードと海水浴と水着美女を堪能した。そして、すべてを知り尽くしてるはずのこの、おれらが町について、異邦人であるミッチから教わったことがひとつあった。それは駅前にある個人経営の明日にも潰れてしまいそうなレンタルビデオ屋のこと。そこには秘密の裏部屋が存在した。店主のオヤジは、お客のニオイを嗅ぎ分けて、秘密の裏部屋へと案内していたそうだ。何故このビデオ屋が潰れないのか、その理由をミッチが証明してみせてくれた。結局、ミッチはシーズンに入ると山に入り、オフになるとこの田舎町に出稼ぎにやってくるというルーティーンを2シーズンほどしたのだが、ミッチの不在中にこのヤミ米屋は別件の密造酒で摘発されてしまった。だから、その翌年からミッチはこの田舎町に戻ることはなかったし、音信不通になってしまった。それから18年たったある日。巡り巡って横浜でミッチと再会した。彼は"番長"の愛称で親しまれ、シューズブランド"●●●th"をディレクトしている。そして偶然にもまた近所に住み、18年間の空白の時間を肴に一緒に酒を飲んだりスケートボードをしたりしている。"番長"の愛称とは裏腹に、どちらかと言えば"アニキ"ってより"兄ちゃん"的な優しい存在感は今も昔も変わらない。つづく。
Eiji Morita