今から数年前、某音楽雑誌に営業に行ったときのこと。アートディレクターの男性と挨拶を交わしデスクを挟んで、ひとしきりポートフォリオを見せた。それから今までの仕事の例として持ってきたSbを含むいくつかのスケートマガジンを見ながら、彼はこう言った。「スケートの分野で随分と仕事をされているようですが、なぜうちに営業に来たのですか?」「仕事の幅を広げようと思いまして」。実際、スケート写真の仕事は増えてきて、少しは撮れるようになってきたのかなという自信がついてきた頃で、仕事の幅を広げようと色々な雑誌に営業のプレゼンに回っていた。その人は続ける。「なるほど。でもスケートの本場ってアメリカでしょう。まだまだアメリカに行ったり、日本でもスケートの写真で極められることは多いんじゃないかな。ポートレートやスケートボーダーを追ったドキュメンタリー写真もあるわけだし。今、あなたは仕事の幅を広げるよりも、そういう写真をとことんまで極めた方が個性という意味でも、お金に関しても、より高い次元の仕事を狙えるんじゃないかな」。僕は思わず黙ってしまった。仕事を広げるという考えを安易だとたしなめられたような、しかもそれに対して自分自身思い当たる節もある。僕が何を言いたいか。それはスケートマガジンでまだまだできることがある、夢を見ていいじゃないか!ということだ。僕はスケートボードのフォトグラファーとして、スケートボードの写真をバカみたいに撮り続けてやろうと思っている。