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TANGENT

クルーズボードってあるだろう。あれがどうも気に入らなかったんだ。小さくて、だいたいソフトウィールをはかせて音も静かでしょ。なんか本来のスケートボードから離れている気がしてね(歴史をひも解けば、スケートボードの原型により近いんだけど)。だけど、3月11日の地震の日以来、その考えは変わったんだ。あの日は台場のステアに撮影に行ってたんだ。台場は埋め立て地だから、地震で津波警報が発令されたときには気が動転した。ヘリコプターが今までに聞いたこともないような緊迫感のあるサイレンを鳴らして、大津波警報のアナウンスをしてたからね。俺たちは急いで車にのって都内に戻ろうとしたんだ。でも大渋滞が発生してて、いっこうに車は進まない。だから、いつもなら30分ほどで戻ることができる市ヶ谷の事務所についたのは、4時間後だった。一緒に撮影していたスケーターたちはその事務所でステイすることにした。だけど俺は生後2ヶ月にもならない息子がいたからプッシュで帰ろうかと思った。そうしたら、スケーターの一人がビデオ撮影用に持ってきたクルーズデッキを貸してくれたんだ。「東京の粗い路面にはコレがいいですよ」って。確かに。いわゆる帰宅難民の人波と大渋滞の車の隙間をすーっと走っていけるんだから、そりゃいいよね。もちろん当時はそんなことを楽しんでいる場合じゃなかったけど、そのおかげでなんとか我が子のもとに帰ることができた。そんなこともあって今では俺も毎日クルーザーで通勤してるってわけなんだけど、乗り心地といったらそれは抜群なんだね。希望を以てして新しい年へ。

Nobuo Iseki