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TANGENT

思い入れのあるTシャツ。自分史のある重要なパートを証明するようなTシャツは捨てがたく、着回しもできないもの。例えば、三重の日本有数のスケートパーク、B7のオーナー森本氏はかつてSbに一枚のTシャツをリコメンドしてくれた。それはフランク・ザッパのアナログ盤BOXセットについてきた「BEAT THE BOOT」Tシャツ。音楽とバンド活動に夢中になっていた時代に購入したTシャツ。いち音楽家としてフランク・ザッパを敬愛する気持ちと彼の死に対するメモリアルな気持ち。そして模倣や偽物が横行する時代に打ってでた直球なメッセージ。そういうすべてが詰まったTシャツだった。「それがある日、いつものようにパーク併設のショップに行くと女房がこのTシャツを着て作業をしてました。『かっこいいから着てみたわ~』と言われ愕然としたものです」。自分史を証明するTシャツへの思い入れと着回し(できない、コレクタブルなもの)について、端的にそして愉快に物語ってくれるものとして、10年前に聞いたこのエピソードが自分は大好きだった。元SLAP編集長のマーク・ホワイトリーがリコメンドしてくれたジュリアン・ストレンジャー「ILLEGAL ALIEN」SMA Tシャツなんかもグッとくるストーリーがあったな。それは置いといて、いまだかつてTシャツを着ないで一年間を過ごせたことがあっただろうか。間違いなく、そんな一年はなかった。今はもっぱら着たいものを選んで購入するだけだが、若い頃はシルクスクリーンで好きなようにTシャツをつくってた。D.I.Yといったら大袈裟かもしれないけど、マテリアルやシルエットよりもメッセージ(というかネタ)を求めていた。勝手に考えたキャッチみたいなのをプリントしたりした。スケートメンタルのブラッド・スタバがまだファンデーションのライダーだった頃、彼のコンプリートデッキとこちらのお手製Tシャツと交換したこともあったっけ。ニューヨーク・ニックスのソウルプレーヤーの象徴、ジョン・スタークスが背負ったジャージーナンバー3に完全にヤラレて、それから3をプリントすることも増えていった。90年代に来日したアメリカのスケーターやスタッフと、スタークスとその他のジャージーナンバー3を背負ったプレーヤーについて熱く話したことは一度や二度ではない。それはイギリス人にマンチェスター・ユナイテッドのポール・スコールズのようなナンバー8についてふっかけると熱くなるのと似ていた。そんなTシャツやジャージーのアイテム遍歴を考えても、つくづく自分は今っぽい本流ではないなと思う。かといって亜流なんかクソ喰らえだ。そういえば、仲間のハシムがつくった稲中卓球部の田中Tシャツ。イケテルところから大きく外したその大胆さとピュアなバカさが最高だった。彼にはレニングラード・カウボーイズの面白さやイレーザーヘッドのイカしてる具合なんかも教えてもらった。とにかく。自分史の若い頃から、気がつけばだいぶ時が経っていた。今ではTシャツといえば、ブランドは違えどとにかくホワイトかシンプルなもののみ。歳とともに蓄積されていく角質汚れと反比例するようにシンプルさを求めているのかどうかは知らないが、そういう一見何の変哲もなさそうなTシャツがどんどん増えていく。もはや、Tシャツに求めるものはシンプルさと、シンプルだからこそ浮き彫りになるシルエットのみになった。メッセージやパターンとそれを写し出すシルエット。映画「スタンドバイミー」のリバー・フェニックスが見せてくれた、白Tシャツにアイスウォッシュデニムにキャンパスシューズとちょっぴりセクシーになりかけてたシルエット。そんなのは、人生のある一時期しかもたらせられないものかもしれなくて、もう眩し過ぎてたまらない。たまらないが、それがいい。たまらないと言えば、映画「ナインハーフ」のミッキー・ロークが同じ白いYシャツばかりをクローゼットに並べてあったのを彼女役のキム・ベーシンガーが覗き見ておののいていたけど、なぜイヤなことの象徴のように表現されてたのかさっぱりわからなかった。たまらないくらいいいじゃないか。良いデザイン、良い風合い、いつまでも良い気分なままでいれるメッセージ。今のお気に入りであると同時に自分史で普遍的でありえると思えたものを何枚もストックしておく。何回も着てしまうけれど、その人がそうすれば、それはワンパターンとは違って美しくて(最高にわかりづらくてくだらない)こだわりになる。それはVol.21でSbが考え提唱した「reposting」な行為と似ている気がする。すべてはシンプルに近い。もしくはシンプル過ぎてもいいし、わりかし近いって感じもくすぐったくていい。とにかくそんな感じ。それがいつまで経っても良い感じで、シンプルだけど貫かれて強い個性になっていく。自信がないとできないことをやっているということになる。Vol.22がリリースされても色あせない、何回洗っても首回りが伸びない、シンプルな風合いと、Sb史上で個人的に「diaspora」と同じくらい今後もずっと反芻するであろうフレーズ「I am reposting it.」の表題Tシャツ、ぜひどうぞ。

Senichiro Ozawa